セファロタスの種類と品種
セファロタス(フクロユキノシタ)には、とても多くの魅力的な品種があります。しかしながら欧米でのブームも日本には届かず、かつては一部のセファロタス愛好家が、ひっそりと個人の小さな温室の中で、誰にも知られることなく、巨大なセファロタスや黒いセファロタスを育てているに過ぎませんでした。
それから十年以上の月日が経った今、輸入代行を営む食虫植物の専門ショップから、これまで入手の難しかった様々なセファロタスが供給されるようになり、にわかにセファロタスの品種が注目を集めるようになってきています。
いつまでも売れ残っていたハマーズジャイアントが今では一瞬で売り切れたり、食虫植物愛好会がラン展で販売していたセファロタスには国内で初めて一般販売されたであろう世界的に稀少な品種も多数含まれていたりと、日本でもセファロタスの品種に対する認識が急速に変わりつつあるように思います。
セファロタスの多くの品種が世界の市場から消え、日本の植物検疫に関する法律の強化も行われたことから、今後、日本への新しい品種の輸入は、かなり厳しいものになっていきそうです。輸入代行ショップやセファロタス愛好家の方々の、長年に渡る努力と情熱によって支えられ、いま国内に存在する貴重な品種が、「どれも同じ」と、ぞんざいに扱われて札落ちとなってしまうことなく、大切に受け継がれ維持されていくことを願ってやみません。
セファロタスを見分けるポイントと見どころ
セファロタスには、自生地や出どころが一緒で何が違うのか区別がつかないような系統にまで品種名が付いていることも多々あり、このような品種しか見たことのない方にとっては、どの品種もみんな同じと思ってしまうのも無理からぬことかもしれません。ですが、いくつか全く違った個性を持つ品種が集まってくる頃には、そうした考えを持っていたことさえ忘れてしまうことでしょう。
セファロタスが品種ごとに最も異なるのは、補虫袋の形の違いです。これはブラックタイプやジャイアントタイプでも同様で、色や大きさは環境により変化しますが、形は一部を除き、その品種に特有のものです。
セファロタスの袋やネクタイのように見える中央に飛び出している突起の形、襟の太さといったところに注目してみれば、今まで同じに見えていたセファロタスも、それぞれの個性が浮き彫りに見えてきて、いっそう自分の育てているセファロタスに愛着が湧いてくることでしょう。
セファロタスには、最高峰とされるエデンブラックや、世界最大と言われるハマーズジャイアントなど、夢のある品種がいくつもあります。
ですが、どのセファロタスが一番のお気に入りになるかは人それぞれの好みによりますので、まずは純粋に見た目の気に入った品種を選ぶようにすることが、よりいっそうセファロタスに愛着を持って長く大切に育てていく上での大事なポイントのように思います。
セファロタスの品種(系統)ごとの特徴
セファロタスの品種には、それぞれ様々な特徴が見受けられます。
中には、こじつけのようにわかりづらい特徴もありますが、もっとも明確に区別しやすい特徴としては、セファロタスの袋を横から見てみることです。大きくカーブしていたり、真っ直ぐだったり、膨らんでいたり、系統ごとにユニークな形を楽しむことが出来ます。
いずれにしても、こうした特徴は、セファロタスが十分に成長してから現われることが多いです。
セファロタスの稀少な品種
セファロタスに付けられた様々な名称の多くはローカルなものですが、世界中で羨望の的となっている有名な系統も魅力的です。
入手困難で稀少な系統(品種)
- Big Boy
- Black
- Coal Mine Beach
- Czech Giant
- Dudley watts(Double ribbed)
- Donnelly River
- Eden Black
- Emu point Giant
- German Giant
- Giant
- Hummers Giant
- Tom Thumb
- Triffid Albany Black
高額で取引される、ごく一部の有名品種を除き、基本的にセファロタスに付けられた名前は有っても無くても同じようなもので、どの系統も安価で取引されているためコレクションしやすく、また、そのような中からお気に入りの系統を探してみることもセファロタスの楽しみと思います。
セファロタスの品種におけるカテゴリ
特徴的なセファロタスを大きく分けるとすれば、ジャイアント系、ミニ系、ブラック系、ダブルリブ系、ティピカル、ワイルド、などでしょうか。そして、その特徴を合わせ持っている個体もあります。
ジャイアント系
写真はハマーズジャイアント
大きな袋を付けるのが魅力的なグループです。世界中で変わることのない人気を誇るセファロタスです。
通常、ジャイアント系の場合は、大きく開いたフタまでを含めた捕虫袋のサイズが7センチから8センチですが、海外や国内の一部の栽培家のセファロタスには10センチもの捕虫袋が付いているということです。
この8センチと10センチの差が、栽培技術の差なのか、品種の差なのかは、はっきりしませんが、10センチのセファロタスは1990年頃から出始めたようです。その品種は現在、ジャーマンジャイアントとして知られています。
海外ではジャイアント系の存在について長らく議論があったようですが、ジャイアント系を含む様々な品種の存在が認知されてからセファロタスが大きなブームとなり、ブームが落ち着く2016年ごろまでの間、海外の多くのショップでは魅力的な品種の数々が賑わっていました。
園芸におけるジャイアント系の起源としては、ジャーマンジャイアントやハマーズジャイアントなどの超特大品種は、オーストラリアの古い園芸店が扱っていた大型の野生セファロタスが世界に渡り、それぞれの国で、それぞれの品種名が付けられて広まっていったようです。
また、それ以外のリッジベイジャイアントなど多くのジャイアント系については、種子を採取した地域個体群の株の大きさにより、オーストラリアの有名な学者がジャイアントと命名して世界中に配布したということのようです。
現在でも一部の海外ショップで、時折、有名なジャイアント系のセファロタスが販売されていますが、商品追加の数時間後には完売していて、変わらぬ人気の高さが伺えます。
ハマーズジャイアント、ジャーマンジャイアント、チェコジャイアント、エミューポイントジャイアント、ビッグボーイ
ミニ系
小さな袋を付けるのが魅力的なグループです。海外のマニア層に人気のセファロタスです。
いかにも品種改良されたような丸く小さな形で、ネペンテスのグラシリスで言うところの、スクワットやスポートに相当するセファロタスです。
トムサム
ブラック系
写真はエデンブラック
袋が黒くなるセファロタスです。セファロタスの最高峰として知られるエデンブラックを始めとして、全体的にかなりの高額で取引されるグループです。
ブラックタイプのブラックとは、その生産者の中での相対的なものなので、例えば、ある地域から採取されたブラック系とされるセファロタスより、他の地域から採取された一般種の方が黒い、ということも、良くあることです。
そして、ブラック系のセファロタスというと、黒ければ黒いほど価値があるのか、と思われがちですが、そもそも、そういうことではなく、ブラックタイプの魅力は、色、形、大きさ、模様など、どこをとっても美しいバランスの良さにあると言えます。
エデンブラック、トリフィドアルバニーブラック
ダブルリブ系
袋の入口にずらりと並んだ襟(えり)、海外では、これを肋骨に例えてリブと呼んでいます。この部分が分厚いグループです。
なお、ダブルリブ系の代名詞的な存在であるダドリーワッツは、今ではホルモン剤の影響が消え、普通のセファロタスに戻っている、という主張もあります。
ダドリーワッツ
在来系
写真はタキイ種苗産
1990年代以前に輸入された系統で、国内で古くから維持されてきた系統は原種の雰囲気を残した稀少な系統のように思います。
ダブルリブさながらに襟が分厚く発達し、自生地の写真で見る野生セファロタスを彷彿とさせる形状をしています。
ビオパルコ三明産、タキイ種苗産
ティピカル
いわゆる普通のセファロタスです。海外における品種改良の過程で品種とならなかった株が安価に入手できるのは魅力的です。たまに意外な特徴を持つ掘り出し物があったりもします。
大きい捕虫袋の方が良く売れることもあり、こぞってチェコジャイアントなどの大型系統との交配が行われ、今では、ほとんどのティピカルが何らかの大型系統の血を引いているようです。
大彰園産、カクタス長田産、野々山園芸産、アメリカ産、チェコ産、フランス産、ドイツ産
ワイルド
写真はコールマインビーチ産
原種のセファロタスです。採取地名が明確であることが最大の価値です。捕虫袋や普通葉に、いくつかの特徴が見受けられます。
かつてセファロタスは様々な環境に自生し、特徴ある地域個体群が存在していましたが、開発などにより多くが絶滅してしまったようです。
現存する自生地は、農地にも宅地にも出来なかった場所や、国立公園などの盗掘が困難だった場所、業者による採取競争が過熱しなかった小型系統の自生地など、かなり限られた場所で、現在は保護地域に指定されていたりするため、原種セファロタスの入手は極めて困難と言えます。
なお、WAはアメリカのワシントン州ではなくウエスタンオーストラリア州の略、Albanyはアメリカのニューヨーク州オールバニーではなく西オーストラリア州のアルバニー、デンマークも欧州の国ではなく西オーストラリア州の地名であるなど、セファロタスの自生地周辺には、誤解されやすい地名も、いくつか見受けられます。
コールマインビーチ(ウォルポール)産
古い年代のセファロタス
外見的な特徴ではありませんが、主に海外において、古い系統は新しい系統に比べて付加価値の付いていることが多いです。
1980年代から1990年代にかけて流通したセファロタスが人気で、異常に高価な上、小さく地味ですが、ジャイアント系やブラック系などを飽きるほど集めた栽培家には、ロマンや原点を求める人も少なくないのかもしれません。
セファロタスにおける品種
登録された品種と言えば、動物でも植物でも、同じ品種の子は同じ品種になる、というのが一般的な解釈のように思います。
そういう意味では、セファロタスで言うところの「品種」は、厳密には一般的な品種とは意味あいが違うかもしれません。
セファロタスの性質は実際のところ、そのラメート(セファロタスであれば、株分け、葉挿し、根伏せ、などで殖えた株)によってのみ、引き継がれるように思われるからです。
なお、フラスコなどの無菌栽培において発根促進などの目的で使用されるホルモン剤は、セファロタスの巨大化や襟の肥大など、様々な異常を引き起こすようです。
そして、そのようなセファロタスが、個性的な品種としてリリースされる場合もあるようですが、何年か経過すると元の正常な姿に戻っていくとのことです。
セファロタスの地方変異と亜種の可能性
セファロタスの多くの品種は、様々な自生地から採取されたものであったり、それらを交配させたりしたもので、生産者が何年にも渡る地道な努力を続けて品種改良に取り組まれてきた功績によるものです。
そして、セファロタスの品種ごとの差は、もともと多くは様々な地域個体群による地方変異で、同じ自生地のセファロタスは同じ特徴を持っています。
古くから維持されているセファロタスの中には、すでに自生地が消失してしまった地域の原種とおぼしき系統も見受けられます。それぞれの品種を維持することは、いつか自生地が判明したときに、絶滅種から野生絶滅種へと、愛好家の手によって種の存続が叶う可能性も含んでいます。
キタノメダカとミナミメダカのように、地域個体群が後に別種や亜種として分類されることも多く、ドロセラ、サラセニア、イワタバコ類、熱帯卵生メダカ、カメなど、こうした動植物に精通されている方々にとっては馴染み深い話題ではと思います。
そして、このような動植物の基亜種と亜種以上に、セファロタスには地域により外観の違いがあるため、詳細に研究されれば、いくつかの地域個体群が亜種、あるいは別種に分類される可能性も残されているように感じます。
セファロタスの品種名について
セファロタスの様々な系統には、数え切れないほどの、品種名、系統名が付けられています。
それは利益を拡大するために付けられたセンセーショナルな品種名であったり、非営利の愛好家が自分のコレクションを区別するために付けたローカルなものであったりします。
セファロタスの場合、登録された品種は名称として確立しています。しかしながら、他の植物と違い、その品種を識別するための特徴は曖昧です。
また、品種として確立していないセファロタスに付けられた系統名に至っては世界中の愛好家が好みで付けたもので、つまり名前そのものには意味がないように思います。
ですから、こうしたセファロタスのバリエーションをいくつも探して楽しむには、名前よりも、その個体の特徴に注目すべきかと思います。
系統名も品種に付けられがちな抽象的なものではなく、そのセファロタスの特徴を想定できる名称であったなら、それを購入時の判断基準にしながら、好みの特徴を備えたセファロタスを選ぶことが、セファロタスを長く楽しく育てるためのポイントのように思います。
品種名に地名が含まれるセファロタス
リッジベイジャイアントやエミューポイントジャイアントなど、有名品種に付けられた地名の場所を訪れたとしても、そこにセファロタスの生えていそうな光景は見当たらないかもしれません。
このような品種は、十数年以上も前に有名なオーストラリアの植物学者が野生のセファロタスから採取した種子を起源とするものが多いようですが、今では、そうした自生地の多くが姿を消しているようです。
オーストラリアでも、わずか数年前には確かに存在していたセファロタスの自生地が消失しているようで、ましてや十数年以上も前の自生地が、そのまま残っていることを期待する方が難しいかもしれません。
セファロタスには、ジャーマンジャイアントやエデンブラックなど、品種登録されるより、ずっと以前から、時には別の名前で維持されてきた起源の古い品種もあり、こうした歴史ある古い品種には、野生では絶滅してしまった重要な地域個体群が含まれている可能性も十分に有り得るでしょう。
セファロタスの栽培方法
当サイトで紹介しているセファロタスの栽培方法については、当方のツイッターの2014年から2015年の記事をご覧いただけましたら幸いです。栽培方法は当時と変わっていませんが、以下が要約になります。
水やり
基本的にセファロタスを栽培している用土は乾かし気味で、ミズゴケはいつも乾いて白くなっています。最初は水やりが少し遅れると多少しおれたりしますが、そのうち、少しくらい水やりを忘れても平然とするようになってきます。腰水はしません。
湿度
湿度はセファロタスを入れてある温室内で、日中が50パーセントから60パーセント、夜間が70パーセントから80パーセント、温室に入りきらなかったセファロタスの場合は、20パーセントから40パーセントの場合も良くあります。
温度
セファロタスを栽培している温室内の温度は、夏が40度近く、冬は5度くらいです。冬は湿度を高く保ち、水やりも少し多めにしています。また、セントポーリアと同じ管理をしているため、冬は1日ほど置いて温くなった水を与えています。
照明
どのセファロタスも室内で育てているため、照明は植物育成灯のみです。だいぶ暗く感じますが、年に1回ほど交換していれば大丈夫なようです。
用土
基本的にセファロタスはミズゴケで育てています。その他、ピートモスとビーナスライトの混合用土、エコスギバイオやすらぎさん、セントポーリア用の用土、多肉植物用の用土など、しっかり通気を確保できる用土であれば、だいたい問題なく育っています。ただし、腐葉土のように発酵して熱を出す用土を含むものは避けます。
その他
できるだけセファロタスが自然に育つよう心掛けています。基本的にセファロタスへ与えるのは水だけで、肥料などは与えず、薬品の類も使いません。
特別なことは何もしなくても、ジャイアント系のセファロタスは勝手に大きな補虫袋を付け、ブラック系のセファロタスは勝手に黒くなります。
セファロタスを栽培しているのと同じ環境で、セントポーリアやシダの仲間が元気に育っています。また、温室の外で多肉植物と化したセファロタスは、湿度も水やりもハオルチアと同じ環境で育っています。
セファロタス栽培の最後の手段
セファロタスの栽培技術の差とは、どれだけ発根させられるかという差ですので、どうしてもうまくいかなくて挫折しそうな場合、最後の手段として、GENERAL HYDROPONICS社のRapidStartのような海外製の強力な発根促進剤を用いるなどすれば、栽培技術の差を補って余りあるでしょう。
あるいは困っている初心者の方の鉢にサッとかけて元気のないセファロタスを立て直してあげれば尊敬の眼差しでみられるかもしれません。
ただし、形質の維持が必要とされる稀少な品種、とりわけ分譲する可能性のあるセファロタスには、いかなる薬品類も使わずに、水だけで育てるべきと考えています。
あまりあれこれとやりすぎて、何でも薬品で解決しようという習慣がついてしまうと、薬品がなければ何もできなくなってしまいます。せっかくの優れた日本独自の栽培技術も広まらず、あるいは試行錯誤による栽培技術の向上もなくなってしまうでしょう。
稀少な品種の維持と、この魅力的な植物の発展には、やはり、セファロタスを愛する多くの方々に、誰でも特別なものを使うことなく再現可能な栽培技術が広まっていくことが必要だと考えています。
セファロタスを育てるのが初めてという方は、以下のサイトの方が、おすすめです。
参考:セファロタスの栽培
参考:当方のツイッター
※ツイッターの仕様変更により、ログインしていないと、当方のセファロタス栽培記事だけでなく、全ての記事が表示されしまう場合があるようです。
※このサイトや参考サイトで解説しているセファロタスの管理方法は、いずれも特殊な栽培方法です。セファロタスの一般的な栽培方法(フタつきの容器や水槽に入れて腰水などで栽培)につきましては、食虫植物関連の書籍をご参照いただければと思います。
セファロタスの部位
セファロタスの各部位には、それぞれ、いくつもの名称が見受けられ、混沌とした様相を呈しています。世界のセファロタス愛好家たちは、何となく通じる名前で、うまいこと意思の疎通をはかっているようです。
このサイトではネペンテスと共通する部位には同じ呼称を用い、便宜的にイメージしやすい名前で、それぞれのセファロタスの品種の特徴を説明しています。
袋(ピッチャー)
いわゆる、捕虫器、捕虫葉、捕虫袋、などと呼ばれる、食虫植物たらしめる器官です。このサイトでは袋としてます。
セファロタスの袋の形状
十分に成長したセファロタスは、系統ごとに特定の形状をした袋ばかり付けるようになります。
どのセファロタスも同じに見えてしまう方は、まずはぜひ、横からいろいろな系統を観察してみることをおすすめします。
ビヤ樽型
口がやや小さく、ビールなどを入れる樽のような、中央が膨らんでいて丸みを帯びた太い形の袋を付けます。在来系は、このような特徴を持っていることが多いです。
原種では、西オーストラリア州のデンマーク地方を原産とするセファロタスも、このような特徴を持っています。
ジャイアント型
口の部分とフタが大きく、袋は穏やかにカーブし、ノの字のような形になります。大型系統に良く見られる形です。
ボトル型
口がやや小さく、すぼんでいて、ボトルや徳利(とっくり)のように見えるタイプです。グィッとカーブするような形や、風船のような形の袋を付けたりします。
みずがめ型
口の大きいタイプで、みずがめのように下へ向かってすぼまる、ずんぐりとしたタイプです。自生地の写真では、この形状のセファロタスが多く見られます。
原種では、ウォルポール周辺に自生するセファロタスも、このような特徴を持っています。
セファロタスの袋の色
セファロタスの品種は色にも特徴が見られます。
ただ、セファロタスの色については、他の園芸植物のように色素が違うというより、紅葉による色の付きやすさの差であるように感じます。
なお、極端な栽培環境においては、どの系統も、緑または、黒になってしまう場合があり、微妙な色彩のグラデーションもなくなり、品種ごとの色の区別はつかなくなってしまいます。
暗赤色
冬の訪れと共に、緑色をしていたセファロタスは赤く色づいたかと思うと、みるみる内に暗赤色になります。多くのセファロタスに見られる色です。
赤色
赤く色づいた後、暗赤色になるのに時間が掛かり、春が来て紅葉が終わる頃にも赤い色の袋を付けていたりする系統があります。美しい赤を長く楽しめるセファロタスです。
黒色
紅葉が早く、いち早く赤く色づいた後、暗赤色になっても紅葉が止まらず、気が付けば黒に近いほど濃い色に染まっている系統のセファロタスです。
いわゆるブラックタイプと呼ばれるグループで、ブラックタイプ同士でも系統により黒さには違いが見られます。
フタ(リッド、ウィンドウ)
セファロタスの補虫袋の上に付いている、文字通りのフタです。このサイトではフタとしています。
セファロタスのMマーク
フタの内側の根元には英大文字のMに似た模様を付けやすい系統がいくつかあります。
フタの内側の紅葉が進行すると、全体が色づいてMマークが消えてしまいますが、内側だけが紅葉しないでMマークが残りやすい系統もあります。
明朝体型
明朝体のように美しく整ったMマーク。
毛筆型
毛筆と墨で書き殴ったようなMマーク。
二本線型
二本の縦線のように見えるMマーク。
にじみ型
抽象画のようにも見えるMマーク。
セファロタスのフタの開き具合
主にHummer's Giantを販売している海外サイトで、フタが大きく直角くらいまで開くのが本物のHummer's Giantの特徴と説明されていることがあります。
ただ、この性質はHummer's Giant以外のセファロタスでも普通に見られますし、同じ系統でも環境や状態により、フタの開く角度は大きく変動します。このため、品種の識別には役立ちません。
Hummer's Giantなどは誤品も多いため、いわゆる本物にこだわるのであれば、別の特徴を挙げているショップから購入されるのも一考のような気がしなくもありません。
襟(ペリストーム、リブドリム、リブ、リム、ナット)
セファロタスの補虫袋の入り口にある、クロワッサンのような形の部分です。このサイトでは襟としています。
襟の太さ
ネペンテスのビロサやハマタさながらに縁歯が並んだ襟はセファロタスの見所のひとつです。この部分にも、それぞれの特徴が見られます。
自生地の写真を見ると襟が分厚く発達しているセファロタスを良く見かけますが、こうした襟の巨大さを特徴とする系統もあります。
翼(ウイング、リテラルリッジ、アウターキール)
セファロタスの補虫袋の左右にある、ペンギンの翼のような突起です。このサイトでは翼としています。
小翼型
あまり隆起していない小さな翼です。エデンブラックやウォルポール産もこのような特徴を持っています。
ネクタイ(フロンタルリッジ、ダブルキール)
セファロタスの補虫袋の中央に飛び出している、ネクタイのように見える突起です。海外のセファロタス愛好家たちは、翼と合わせてリッジやキールと呼び合ってるようです。このサイトではネペンテスの襟にならってネクタイとしています。
セファロタスのネクタイの形状
中央に隆起するネクタイは品種ごとの特徴が表れやすい部分です。下が大きく広がるものや、細いものなど、差異が見られます。
柳葉型
柳の葉のように中央より下が少し広がり、下方に向けて再び、すぼまっていくタイプです。様々な産地の交配種などにも見られる、ごく一般的な形状です。
ネクタイ型
下にいくにつれて、やや太くなっていくタイプです。これも、様々な産地の交配種などに、よく見られる形状です。
三角型
下にいくにつれ、急激に太くなっていくタイプで、二等辺三角形のような形状をしています。
とても見分けやすい特徴のひとつで、ハマーズジャイアントやジャーマンジャイアントなど、同じ産地が起源と考えられる大型系統のセファロタスに共通する特徴です。
靴べら型
やや下部が膨らみ、折り目のように窪んだ、長い靴べらのような形状をしています。エデンブラックも、このような特徴を持っています。
稲の葉型
たいへん細長いタイプで、原種であるウォルポール産も、このような特徴を持っています。
毛(トライコーム)
セファロタスを覆う細かい毛です。このサイトでは毛としています。
セファロタスの毛
セファロタスの補虫袋を覆う毛にも違いがみられます。アルバニーより東の自生地に産する原種の中には、毛むくじゃらの系統もあるようです。
胸ポケット
襟の下、ネクタイ、左右の翼、の三つに囲まれた位置に、ポケットのような四角い形などの立体的な模様が浮かび上がるセファロタスが見受けられます。
話題に上ることのない部位のため、特に名前もないようですが、このサイトではネペンテスの襟にならって胸ポケットとしています。
セファロタスの胸ポケット
補虫袋が巨大化した場合にみられることから、品種の識別には役立たないかもしれません。
セファロタスの品種と系統
食虫植物 セファロタス(フクロユキノシタ)は、主に海外においては外観の異なる、いくつかの系統が、園芸植物として流通しています。
そして、そのうちのいくつかの系統には品種名が付けられていています。このサイトでは便宜的に系統も品種のひとつとして比較していきたいと思います。
セファロタスの品種
セファロタスの愛好家なら、世界中の誰もが知っている有名な品種たちがあります。今なお、たいへん人気が高く、海外のショップでも販売リストに載ると、すぐに売り切れてしまうセファロタスたちです。
有名なだけに誤品も多いのですが、海外では同じショップでも入荷時期により、仕入先が違うとしか思えないような、前回とは違う系統が販売される場合もあります。特に2017年以降の輸入品に多い気がします。
このため、出どころが明確な場合は、どこで販売されていたセファロタスかと、そして、もし可能であればですが、輸入年度を記載して管理しておくと、入手した系統が増えたとき、混乱せずに済むかと思います。
品種(系統) | 袋の形状 | 袋の色 | 一口メモ |
---|---|---|---|
Hummer's Giant |
ジャイアント型 大型品種 |
暗赤色~黒色 | 最も有名な、伝説のセファロタス。最大の系統として知られる。 |
German Giant |
ジャイアント型 大型品種 |
暗赤色~黒色 | Hummer's Giantと双璧を成す巨大セファロタス。色彩も美しい。 |
Big Boy |
みずがめ型 大型品種 |
暗赤色~黒色 | 美術品のような質感のセファロタス。魔法の壺のような袋が魅力的。 |
Eden Black |
みずがめ型 中型品種 |
黒色 | ブラックタイプのセファロタスとしては黒さ控えめ。重厚で迫力がある。 |
原種 Coalmine Beach |
みずがめ型 中型系統 |
暗赤色 | 原種のセファロタス。ウォルポールのコールマインビーチ産。 |
セファロタスの様々な系統
普通のセファロタスとして販売されている系統、あるいは有名品種の誤品の中にも、入手元のショップやマニアごとに、それぞれ個性的で魅力的な系統が、たくさんあります。
出どころが明確な場合は、どこで販売されていたセファロタスかを記載して管理しておくべきでしょう。それにより、いつか、そのセファロタスの起源をたどることができるかもしれません。
Giant(Black) |
ジャイアント型 大型系統 |
暗赤色~黒色 | 精悍な大型の黒い袋と見事なMマークは見応えあり。Hummer's Giantに似たセファロタス。 |
---|---|---|---|
Bottle type(Black) |
ボトル型 中型系統 |
暗赤色~黒色 | ゼリービーンズのような袋がユニークなブラックタイプのセファロタス。 |
Bottle type(Red) |
ボトル型 中型系統 |
赤色 | 鮮やかな赤が美しいセファロタス。風船のような形になりやすい。 |
Minor form |
ビヤ樽型 小型系統 |
暗赤色~黒色 | 野性味のある小さな袋。山野草のような趣のあるセファロタス。 |
Typical |
不定形 大型系統 |
暗赤色 | 一般的なセファロタス。最近はホームセンターにも流通。 |
「'(シングルクォート)」でくくられているのが品種、「"(ダブルクォート)」でくくられているのが品種として確立されていない系統(複数の名称を持つ場合がある愛称)という表記になるようです。
セファロタスは育てる環境により、同じ系統でも、外観の特徴には差異が生じますが、ここでは同じ環境で同時に育てている系統の特徴を比較しています。
- 植物育成灯で栽培しているため、写真は青みや赤みなどが強調されている可能性があります。
- 袋の色や形は栽培環境によって変化しますので他の環境でもこの特徴になるとは限りません。
- 特に色は環境(特に温度と光量)によっては系統ごとの差がはっきり出ない場合があります。
- 系統ごとの特徴は十分に成熟するまでは発現しないことがあります。
- 入手された株が、ここで解説している特徴と合わないからといって偽物という根拠にはなりません。
- 袋の色は、冬季に緑から赤への変化を経て、春先までに更に紅葉が進んだ後、濡らさずに観察。
- あくまで個人の感想です。
おすすめの品種
初めてセファロタスを栽培される方やネペンテス愛好家の方は補虫袋の大きさを重視される方が多く、いくつもの品種を集めている方やセファロタス愛好家の方は大きさよりも色や形を重視される方が多いように思います。
セファロタスには、こうした様々なニーズにも応えられる多様な品種が揃っていますので、お気に入りの品種がきっと見つかることと思います。
Giant Y's
簡単に巨大な補虫袋を付けてくれるジャイアント系の最優良品種。形も良く、経験者の方にも人気ですが、セファロタスの素晴らしさを実感させてくれますので、初心者の方の最初の1鉢としても、おすすめです。
大彰園産
安価なため、雑に扱われてしまうこともありがちですが、たいへん形の良い素晴らしいセファロタスです。ただし、入荷時期などにより系統が変わってくる可能性もありますので、見て気に入った形であれば購入をおすすめします。
BE-3563
日本の園芸業者へ多くの食虫植物を卸しているスリランカのBorneoExoticsでは、普通のセファロタスとしてBE-3563という系統を販売していますが、これも古くから大型化することで知られ、特に海外で高い評価を得ているセファロタスです。
Very nice dark clone (David)
少しエデンブラックに似た系統で、エデンブラックより全体的に太く、かなり逞(たくま)しい印象を受けます。ブラックタイプらしい魅力を持つ、美しい稀少セファロタスです。
Black Form BCP (BestCarnivorousPlants)
一般的なブラックタイプとは別の系統ですが、より黒くなるタイプで、セファロタスに熱中されている方々が無意識のうちに引き寄せられていくようなマニア好みの品種です。他のブラックタイプに比べて価格も手ごろですが貴重な品種です。
Seedling of Hummers Giant
最大のセファロタスとして知られるハマーズジャイアントの実生系統で、現在、出回っているのは選別されたものなのか、オリジナルを超えるほど別格のサイズにまで生長する場合があるようです。なお、ハマーズジャイアントはどうやら原種のようなので、実生でも親株の形質を受け継ぐものとみられます。